失敗しないデータ分析「問い」の技術

抽象的なビジネス目標をデータ分析できる具体的な「問い」に変えるステップ

Tags: データ分析, 問い, ビジネス目標, 課題設定, 分析設計

データ分析を始める際、多くの人が「とりあえず、このデータを分析して」といった漠然とした依頼を受けたり、「売上を上げたい」「顧客満足度を高めたい」といった抽象的なビジネス目標に対して、具体的に何をどう分析すれば良いか分からずに立ち止まってしまったりすることがあります。このような場合、データ分析は方向性を見失い、期待した成果につながらない可能性が高くなります。

データ分析を成功に導くためには、分析の出発点である「問い」が極めて重要です。そして、その「問い」は、抽象的なビジネス目標から、データで検証可能で具体的な形に落とし込まれている必要があります。

本記事では、抽象的なビジネス目標を、データ分析で成果を出すための具体的な「問い」へと変換するためのステップを、初心者の方にも分かりやすく解説します。

なぜ抽象的な目標ではデータ分析がうまくいかないのか

「売上を上げたい」「コストを削減したい」「顧客離れを減らしたい」といったビジネス目標は、最終的に目指す方向としては正しいものです。しかし、データ分析の「問い」としては抽象的すぎます。

なぜなら、データ分析は特定の現象やその原因、関連性を数値的に明らかにする活動だからです。抽象的な目標だけでは、

といった問題が生じます。結果として、手元にあるデータを眺めているだけで終わったり、目的が曖昧なまま分析を進めてしまい、時間と労力を無駄にしたりする事態に陥りがちです。

データ分析をビジネス成果につなげるためには、「何を明らかにすれば、この目標達成に貢献できるのか?」という具体的な問いを立てる必要があります。

抽象的なビジネス目標を具体的な「問い」に変えるステップ

抽象的なビジネス目標から、データ分析できる具体的な「問い」を導き出すためには、いくつかのステップを踏むことが有効です。ここでは、順を追ってその考え方を見ていきましょう。

ステップ1:ビジネス目標を理解し、構成要素を考える

まず、与えられた、あるいは設定したビジネス目標が具体的に何を意味しているのかを深く理解します。そして、その目標がどのような要素で構成されているのかを考えます。

例えば、「ECサイトの売上を上げる」という目標であれば、売上は「顧客数 × 平均購入単価 × 購入頻度」といった要素に分解できると考えられます。これらの要素は、さらに細分化が可能です(例:顧客数は新規顧客とリピート顧客に分けるなど)。

この段階では、最終的な目標を達成するために影響を与えるであろう様々な要素を洗い出すことを意識します。

ステップ2:目標達成を阻む「課題」または「機会」を特定する

次に、ステップ1で分解した構成要素や、その他のビジネス状況を踏まえ、目標達成を阻んでいる「課題」や、目標達成に貢献する「機会」は何かを特定します。

「売上を上げたい」という目標に対し、構成要素の分解から「新規顧客数は増えているが、リピート率が低い」という現状が見えてきたとします。この場合、「リピート率の低さ」が売上目標達成を阻む重要な「課題」である可能性が高いです。

逆に、「あるプロモーションを行った顧客グループの購入単価が高い傾向にある」といった発見があれば、それは売上増加につながる「機会」と捉えることができます。

このステップでは、「目標と現状とのギャップ」に焦点を当て、そのギャップを生み出している要因は何かの仮説を立てるようなイメージです。

ステップ3:課題/機会をデータで検証可能なレベルに具体化する

ステップ2で特定した課題や機会について、「それは具体的にどのような状態なのか?」「何が原因で起きている可能性があるのか?」をさらに掘り下げて考えます。そして、それをデータで計測したり、関連性を確認したりできるレベルまで具体化します。

「リピート率が低い」という課題であれば、原因として何が考えられるでしょうか。例えば、

といった様々な可能性が考えられます。これらの可能性それぞれについて、「データで検証するにはどう具体化すれば良いか?」を検討します。

ステップ4:具体的な要素からデータ分析の「問い」を生成する

ステップ3で具体化した課題や機会の要素、そして考えられる原因候補から、データ分析の「問い」を明確に定義します。

例えば、「特定カテゴリの商品を購入した顧客のリピートが低いのではないか?」という可能性に対しては、以下のような問いが考えられます。

これらの問いは、いずれも「リピート率の低さ」という課題の、特定の側面や原因候補に焦点を当てており、データを用いて検証可能な形式になっています。このように、抽象的な目標から具体的な課題や機会、そしてその原因候補を掘り下げていくことで、分析すべき具体的な「問い」が見えてきます。

良い「問い」になっているかを確認するチェックポイント

生成した「問い」がデータ分析に適しており、ビジネス成果につながるものであるかを確認するために、以下のチェックポイントを意識してみてください。

これらのチェックポイントは、特にデータ分析の経験が少ない方にとって、「問い」の良し悪しを判断する上で有効な手がかりとなります。

事例:抽象的な目標を具体的な問いに変えるプロセス

ここでは、架空の事例を用いて、抽象的なビジネス目標から具体的なデータ分析の問いを導き出すプロセスを確認します。

ビジネス目標: Webサイトからの問い合わせ数を増加させる

ステップ1:目標の構成要素を考える 問い合わせ数は、「サイト訪問者数 × 問い合わせ率」で構成されると考えられます。

ステップ2:課題/機会を特定する サイト訪問者数は増加傾向にあるが、問い合わせ率が低いという課題が見つかったとします。

ステップ3:課題をデータで検証可能なレベルに具体化する 問い合わせ率が低い原因として、いくつかの可能性を考えます。 * 特定の流入経路からの訪問者の問い合わせ率が低い? * サイト内の特定のページを見ている訪問者の問い合わせ率が低い? * 問い合わせフォームに問題がある(入力項目が多い、分かりにくいなど)? * ターゲットとしている顧客層と、実際に訪問しているユーザー層にずれがある?

今回は、「特定の流入経路からの訪問者の問い合わせ率が低い」という点に焦点を当ててみましょう。さらに具体的に、「広告経由の訪問者」と「自然検索経由の訪問者」の問い合わせ率に違いがあるかを検証したいと考えます。

ステップ4:データ分析の「問い」を生成する ステップ3での具体化に基づき、問いを生成します。

これらの問いは、データを用いて検証可能であり、その結果から「広告出稿の方法を見直す」「広告からのランディングページを改善する」といった具体的な施策検討につながります。

まとめ

データ分析は、「問い」の質によってその成果が大きく左右されます。「売上を上げたい」といった抽象的なビジネス目標だけでは、効果的なデータ分析は困難です。

本記事で紹介したように、抽象的な目標を、その構成要素への分解、課題や機会の特定、データで検証可能なレベルへの具体化といったステップを踏むことで、分析すべき明確な「問い」が見えてきます。そして、その問いが具体的か、データで答えられるか、アクションにつながるかといったチェックポイントで確認することで、より質の高い「問い」に磨き上げることができます。

データ分析の最初のステップである「問い」を正しく立てる技術を習得することは、データ分析を単なる数値集計で終わらせず、ビジネス成果に直結させるための鍵となります。ぜひ、日々の業務でこの考え方を実践してみてください。