データ分析の結果が出ても「あれ?」とならないための「問い」の立て方
データ分析を進め、グラフやレポートが完成したとき、「あれ?なんか思っていたのと違うな」「この数字を見ても、結局どうすればいいんだろう?」と感じた経験はないでしょうか。データを一生懸命集計・可視化したのに、得られた結果がビジネス上の意思決定に繋がらない、あるいは期待外れだったという状況です。
このような状況は、データ分析のプロセスにおいてよく発生します。その根本的な原因の一つとして、分析の最初のステップである「問い」が適切に立てられていないことが挙げられます。どのような「問い」を立てるかによって、集めるべきデータ、行うべき分析手法、そして得られる分析結果の質が大きく左右されるためです。
本記事では、なぜデータ分析の結果が期待と乖離してしまうのか、その原因となる「間違った問い」の具体例と、分析結果をビジネスアクションに繋げるための「乖離しない問い」を立てるための考え方や手順について解説します。
分析結果が期待と乖離する「間違った問い」とは?
データ分析の結果が「ピンとこない」「役に立たない」と感じる場合、それは以下のような「間違った問い」を立てている可能性があります。
例1:漠然とした、何を知りたいか不明確な問い
- 「最近の売上データをまとめてください」
- 「このキャンペーンの数字はどうなっていますか?」
これらの問いは、具体的な目的や知りたい内容が曖昧です。「売上データ」といっても、期間、商品カテゴリ、顧客属性など、様々な切り口があります。「キャンペーンの数字」も同様に、参加率、購入単価、リピート率など、見るべき指標は多岐にわたります。このような漠然とした問いでは、分析担当者は何を目指してデータを集計・可視化すれば良いか分からず、結果として多角的にデータを出すものの、意思決定に役立つ特定の示唆が得られにくくなります。
例2:原因ではなく、結果そのものに焦点を当てた問い
- 「〇〇商品の売上が△△%下がったのはなぜですか?」→(「なぜ」と聞いているが、単に結果の数値を求めがち)
- 「Webサイトの離脱率が上がった理由は何ですか?」→(分析で直接的な単一の理由を特定するのは難しい場合が多い)
ビジネスにおいて、何か問題が発生したときにその「原因」を知りたいと思うのは当然です。しかし、データ分析で直接的に「たった一つの原因」を突き止めることは非常に難しい場合があります。多くのビジネス上の事象は複数の要因が複雑に絡み合って発生するため、結果そのものに焦点を当てた問いでは、表面的な相関は見られても、真の打ち手につながる深い原因やメカニズムを解明するに至らないことがあります。分析結果を見ても、「なるほど、そういう傾向はあるけど、それで?」となってしまいがちです。
例3:手元のデータや分析能力で答えられない問い
- 「競合他社のWebサイト流入経路をすべて分析してください」
- 「顧客の隠れた購買意欲を正確に予測してください」
どんなに良い問いでも、それを検証するためのデータが手元になかったり、現在のチームの分析スキルや利用可能なツールで対応できない高度な分析が必要だったりする場合、その問いにデータ分析で答えることはできません。無理に進めようとすると、不正確な分析になったり、膨大な時間とコストがかかったりするだけで、結局は期待する結果が得られないという状況に陥ります。
これらの「間違った問い」は、分析担当者がデータを集め、加工し、可視化する労力をかけたにもかかわらず、ビジネス課題の解決や意思決定に繋がる有用な示唆を得られない原因となります。
分析結果をビジネスアクションに繋げる「乖離しない問い」の立て方
では、データ分析の結果が期待と乖離せず、具体的なビジネスアクションに繋がるような「良い問い」はどのように立てれば良いのでしょうか。重要なのは、分析を開始する前に、なぜデータ分析を行うのか、その目的を明確にし、具体的なビジネス課題に深く向き合うことです。
以下に、効果的な「問い」を立てるための基本的な考え方と手順をご紹介します。
ステップ1:ビジネス課題・目的を明確にする(Why)
「なぜデータ分析が必要なのか?」という根本的な問いから始めます。
- 何が問題なのか?(例:売上が下がっている、特定の顧客からの離脱が増えている、Webサイトのコンバージョン率が低い)
- 何を達成したいのか?(例:売上を回復させたい、顧客離脱率を改善したい、コンバージョン率を向上させたい)
- この分析結果を誰が、何のために使うのか?(例:営業部門が売上回復策を検討するため、マーケティング部門がWeb改善施策を立案するため)
ここを曖昧にしたままデータ分析を始めると、分析の方向性が定まらず、的外れな結果に終わる可能性が高くなります。まずは、ビジネス上の「困りごと」や「目標」を具体的に言葉にすることから始めましょう。
ステップ2:知りたい「事実」を具体化する(What)
ビジネス課題や目的が明確になったら、それを解決・達成するために「どのような事実を知る必要があるのか」を具体的に考えます。これがデータ分析によって明らかにすべき内容です。
- 例:売上回復 → 「売上が下がっている原因」ではなく、「どの顧客層からの売上が特に減少しているのか」「どのチャネルからの売上が伸び悩んでいるのか」「どの商品の購入単価が下がっているのか」など、具体的な側面に分解します。
- 例:顧客離脱改善 → 「顧客がなぜ離脱したのか」ではなく、「離脱した顧客の属性に特徴はあるか」「離脱前に特定の行動パターンが見られるか」「離脱しやすいサービス利用状況はあるか」など、データで観測可能な「事実」に焦点を当てます。
この段階では、仮説を立ててみることが有効です。「おそらく〇〇が原因ではないか?」「△△な顧客層が特に離脱しているのではないか?」といった仮説を持つことで、知りたい事実(データで検証すべきこと)がより明確になります。
ステップ3:知りたい事実を検証するための「問い」に落とし込む
ステップ2で明確になった「知りたい事実」や「仮説」を、データ分析で検証可能な「問い」の形に落とし込みます。
- 「過去1年間で、売上減少率が特に大きい顧客セグメントはどれか?」
- 「新規顧客とリピート顧客で、Webサイトの回遊率に違いはあるか?」
- 「製品Aを購入した顧客は、製品Bを同時に購入する傾向があるか?」
- 「あるキャンペーン参加者の離脱率は、非参加者の離脱率と比較してどの程度低いか?」
このように、データを使って数値で確認できる、答えがyes/noや具体的な数値・傾向で返ってくるような問いにすることで、分析の方向性が明確になります。
ステップ4:問いと手元データの整合性を確認する
立てた問いに対し、必要なデータが手元にあるか、またそのデータは信頼できるかを確認します。
- 問いに答えるために必要なデータ項目(例:顧客ID、売上金額、購入日、キャンペーン参加有無、Webサイト上の行動ログなど)は揃っているか?
- データの粒度(日次、月次など)は問いに答えるのに十分か?
- データの期間は適切か?
- データは正確か、偏りはないか?
もしデータが不足している、または不正確な場合は、問いを修正するか、必要なデータを追加で収集する方法を検討します。この確認を怠ると、せっかく立てた問いに答えられず、分析が頓挫してしまいます。
「問い」の改善がデータ分析の成果を変える事例
架空の事例を通じて、「問い」の質が分析結果とビジネスアクションにどう影響するかを見てみましょう。
ビジネス課題: 新規顧客獲得コストが増加しており、収益を圧迫している。
Aさんの「問い」: 「新規顧客獲得コストを分析してください。あと、最近の新規顧客の属性も見ておいてください。」
- 分析結果: 新規顧客獲得コストの推移グラフ、新規顧客の年齢層・地域・流入チャネル別の割合データ。
- 示唆: コストが上がっていることは分かった。新規顧客の属性も分かった。しかし、「なぜ」上がっているのか、そして「どうすればコストを下げられるのか」といった具体的なアクションに繋がる示唆は得にくい。単に現状を把握しただけで終わる可能性が高い。
Bさんの「問い」: 「新規顧客獲得コスト増加の原因を探り、コスト効率の良い獲得チャネルを見つけたいです。特に、リスティング広告経由の獲得コストが上がっているように見えます。本当にそうか確認し、もしそうなら、他のチャネルと比較して、どのチャネルの顧客が最も LTV(顧客生涯価値)が高いかを知りたいです。」
- 乖離しない問いの要素:
- ビジネス課題:「新規顧客獲得コストの増加を抑制し、コスト効率を改善したい」
- 知りたい事実(仮説含む):「リスティング広告の獲得コストが実際に上昇しているか」「チャネルごとの顧客のLTVは異なるか」
- 検証可能な問い:「過去半年間で、チャネル(リスティング広告、SNS広告、自然検索等)別の新規顧客獲得コストの推移はどうなっているか?」「チャネル別に獲得した顧客の平均LTVはどの程度か?」
- 期待される分析結果: チャネル別の獲得コスト推移グラフ、チャネル別の顧客LTV比較表。
- 期待される示唆: リスティング広告の獲得コストが他のチャネルより著しく上昇していることが判明。一方、SNS広告経由の顧客は獲得コストはやや高いが、LTVが最も高いことが分かった。
- 具体的なビジネスアクション: リスティング広告の運用方法を見直す、SNS広告への予算配分を増やす、LTVの高いチャネルからの獲得を強化する施策を検討する、など。
このように、ビジネス課題に深く根差し、具体的に知りたい事実を問いに落とし込むことで、単なるデータ集計では得られない、具体的なアクションに繋がる有用な示唆を引き出すことができます。
「良い問い」になっているか?初心者向けチェックリスト
最後に、データ分析の「問い」を立てた際に確認すべき、初心者向けのシンプルなチェックリストをご紹介します。
- Q1. その問いは、解決したいビジネス課題や達成したい目標と繋がっていますか?
- → はい:その問いに答えることで、ビジネス上の困りごとが解消されたり、目標達成に近づいたりするか?
- → いいえ:何のためにこの問いに答えるのか、立ち戻って目的を確認しましょう。
- Q2. その問いに答えることで、具体的な「事実」や「傾向」が分かりますか?
- → はい:漠然と「どうなっていますか?」ではなく、「〇〇は△△と比較して高いか低いか?」「◇◇の傾向はあるか?」など、答えが数値や明確な違いとして返ってくるか?
- → いいえ:もう少し具体的に、何を知りたいのか掘り下げてみましょう。
- Q3. その問いに答えるためのデータは手元にありますか、または収集可能ですか?
- → はい:今持っているデータ、またはすぐに手に入れられるデータで分析が可能か?
- → いいえ:問いを修正するか、必要なデータをどう収集するか検討しましょう。
- Q4. その問いに答えることで、何らかの「示唆」や「次のアクション」が見えてきそうですか?
- → はい:分析結果から「〇〇してみよう」「△△についてもっと詳しく調べよう」といった具体的な打ち手や次のステップが考えられそうか?
- → いいえ:分析して「分かった」だけで終わらず、その結果をどうビジネスに活かすかという視点を取り入れてみましょう。
これらのチェックポイントを確認することで、データ分析の「問い」が、単なるデータ眺めではなく、価値ある示唆とビジネスアクションに繋がる可能性を高めることができます。
まとめ
データ分析の成果は、どのような「問い」を立てるかに大きく左右されます。「とりあえずデータを見てみよう」という漠然としたアプローチや、単なる現状把握を目的とした問いでは、期待する結果が得られず、時間と労力を無駄にしてしまう可能性があります。
データ分析で失敗しないためには、まず解決したいビジネス課題を明確にし、そこから導かれる「知りたい事実」を具体的な「問い」に落とし込むプロセスが不可欠です。そして、その問いが手元のデータで検証可能であり、分析結果からビジネスアクションへの示唆が得られるかを確認することが重要です。
分析結果を見て「あれ?」となる前に、まずは「なぜ分析するのか?」「何を知りたいのか?」という「問い」にじっくりと時間をかけて向き合うことが、データ分析を成功に導くための最初の、そして最も重要なステップと言えるでしょう。
データ分析は、適切な「問い」を立てることで、強力なビジネスの武器となります。ぜひ、日々の業務の中で「問い」を立てる練習を重ねてみてください。