失敗しないデータ分析「問い」の技術

データ分析で深掘りする「なぜ?」の問い

Tags: データ分析, 問いの立て方, 原因究明, ビジネス分析, 課題解決

データ分析を行う際、集計された数字やグラフを見て「ふむふむ、こういう状況なのか」と現状を把握することは、もちろん重要です。しかし、そこで分析が終わってしまい、「だから、具体的に何をすれば良いのだろう?」と立ち止まってしまった経験はないでしょうか。

単に「どうなっているか」を知るだけでなく、「なぜそうなっているのか」を理解すること。これこそが、データ分析を次の行動へつなげ、真に価値あるものにするための鍵となります。そして、「なぜ?」を解き明かすためには、適切な「問い」を立てる技術が不可欠です。

データ分析の最初のステップである「問い」の立て方に焦点を当て、特に「なぜ?」を深掘りするための考え方と具体的な方法について解説します。

なぜ、データ分析では「なぜ?」を問う必要があるのか?

データ分析を始める際に、「今月の売上はどうなっているか」「Webサイトへの流入はどのくらいか」といった「どうなっているか(現状)」に関する問いから入ることは一般的です。これらの問いは現状把握のために重要ですが、データ分析の目的が単なる状況報告で終わらないのであれば、それだけでは不十分です。

例えば、「先月より売上が10%減少した」という分析結果が得られたとします。この現状把握は出発点としては正しいですが、「なぜ減少したのか?」という問いがなければ、減少の原因を特定し、対策を講じることはできません。

後者の「なぜ?」という問いこそが、問題の本質を見抜き、改善策や新たな施策のヒントを与えてくれるのです。データ分析で「なぜ?」を問わないということは、症状だけを見て原因を探らないままにすることに等しいと言えるでしょう。

データ分析で陥りがちな「なぜ?」に関する間違った問い

「なぜ?」の重要性は理解できたとしても、実際に「なぜ?」を問おうとすると、効果的な問いを立てられていないケースが少なくありません。ターゲット読者が陥りがちな、よくある間違った「なぜ?」に関する問いとその問題点を見てみましょう。

  1. 漠然としすぎている問い:

    • 例:「なぜ売上が下がったのですか?」
    • 問題点:売上低下には様々な要因(顧客数の減少、単価の低下、特定商品の不振、競合、時期など)が考えられます。あまりに広範な問いは、どこからデータを見て、何を分析すれば良いのかが不明確になり、分析が手詰まりになります。
  2. 原因を決めつけている問い:

    • 例:「新施策Aを実施したのに売上が伸びないのは、なぜ営業担当Bさんの努力が足りないからですか?」
    • 問題点:特定の要因(この場合は営業担当Bさんの努力)に原因を決めつけ、他の可能性を排除しています。データ分析は特定の仮説を検証することはありますが、最初から結論ありきで問いを立てると、偏った分析になり、真の原因を見落とす可能性があります。
  3. 検証不可能な問い:

    • 例:「なぜ顧客はもっと多く買ってくれないのですか?」
    • 問題点:「もっと多く」という基準が曖昧であったり、顧客の心理など、データだけでは直接的に答えが出せない要素が含まれていたりします。データ分析で答えを出すためには、データで検証可能な問いである必要があります。

これらの間違った問いは、分析の方向性を誤らせたり、分析作業を非効率にしたりする原因となります。データ分析は万能なツールではなく、適切な問いがあってこそその力を発揮するのです。

効果的な「なぜ?」の問いを立てるためのステップ

では、どのようにすれば、データ分析を真に価値あるものにする効果的な「なぜ?」の問いを立てることができるのでしょうか。ここでは、初心者でも実践しやすい基本的なステップを紹介します。

ステップ1:現状の「どうなっている?」を具体的に理解する

まず、問題となっている状況や関心のある現象について、「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「どのくらい」といった基本的な事実をデータで正確に把握します。例えば、「売上が下がった」であれば、「どの期間に」「どのエリア/店舗で」「どの顧客層の」「どの商品/サービスで」「どのくらい」下がったのか、可能な限り具体的にデータで確認します。これが「なぜ?」を深掘りする上での具体的な出発点となります。

ステップ2:考えられる「なぜ?」の仮説を立てる

ステップ1で具体的に把握した現状を踏まえ、「なぜそうなっているのだろう?」について、いくつかの可能性(仮説)を考えます。この時点では、必ずしもデータに基づいている必要はありません。経験、常識、関連部署からの情報、過去の事例など、様々な情報源を基に自由に発想してみましょう。

ステップ3:仮説を検証するための具体的な「問い」に分解する

立てた仮説それぞれについて、その仮説が正しいかどうかをデータで検証するための具体的な「問い」へと分解します。大きな「なぜ?」を、より小さく、データで答えられる質問に落とし込むイメージです。

このように、一つの大きな「なぜ?」から、複数の具体的な検証可能な「問い」が生まれます。

ステップ4:問いがデータで答えられるか、次のアクションにつながるかを確認する

最後に、立てた問いがデータ分析に適しているか、そしてその問いに答えが出た場合に次にどう行動するかをイメージできるかを確認します。

このステップを踏むことで、「なんとなく気になるからデータをまとめて」といった漠然とした分析ではなく、目的意識を持った、行動につながるデータ分析が可能になります。

「なぜ?」の問いが分析を変える事例

ここで、問いの立て方を変えることでデータ分析の成果がどのように変わるか、簡単な事例を見てみましょう。

状況: ECサイトの全体的なコンバージョン率(CVR:サイト訪問者のうち商品購入に至った割合)が低下している。

間違った「問い」: 「なぜCVRが下がったのですか?とにかくデータを見てください。」

この問いによる分析: アナリストは、とりあえずサイト全体のCVRの推移、流入経路別のCVR、デバイス別のCVRなどを集計・報告するかもしれません。しかし、「なぜ下がったのか」の具体的な原因候補がないため、集計結果を眺めるだけで終わり、「CVRが下がっていますね」という事実確認以上の洞察が得られない可能性があります。対策も、「とりあえずサイトを改善しましょう」といった曖昧なものになりがちです。

効果的な「問い」への改善プロセス:

  1. 現状把握: CVR低下の期間や、特にCVRが低い流入経路やデバイスがあるかをデータで確認。→ 例:特定の広告経由のCVRが顕著に低いことが判明。
  2. 仮説設定: なぜ特定の広告経由のCVRが低いのか? → 仮説:広告クリエイティブと遷移先のページ内容が一致していない、広告で訴求している層とサイトの顧客層が合わない、広告のターゲット設定がずれている、など。
  3. 検証のための問いに分解:
    • 問い1:「特定の広告クリエイティブでクリックしたユーザーは、サイトのどのページにランディングし、どのような行動を取っているか?(他の流入経路と比較して違いはあるか?)」
    • 問い2:「その広告のターゲット設定は、実際にサイトで購入に至る顧客層の特徴(年齢、性別、興味関心など)と合致しているか?」
  4. データ検証と次のアクション確認: 必要なデータ(Webサイトのアクセスログ、広告配信レポート、顧客データなど)は利用可能か? これらの問いに答えられれば、広告の出し方、ランディングページの改善、ターゲット設定の見直しなど、具体的なアクションにつながるか?

この問いによる分析: 改善された問いに基づいて分析を進めると、例えば「特定の広告からは、本来ターゲットとしていない層が多く流入しており、彼らはサイトコンテンツに興味を示さずに離脱している」といった具体的な洞察が得られるかもしれません。これにより、「広告のターゲット設定を変更する」「広告クリエイティブとランディングページの内容をより一致させる」といった、具体的な改善策を立案し、実行することが可能になります。

このように、漠然とした「なぜ?」から一歩踏み込み、具体的な仮説に基づいた検証可能な「問い」を立てることで、データ分析は単なる現状把握から、問題解決のための強力なツールへと変わります。

まとめ:良い「なぜ?」の問いが、データ分析の質を決める

データ分析で「失敗しない」ためには、最初のステップである「問い」の質が極めて重要です。特に、単なる現状把握に留まらず、問題の背景や原因に迫るためには、「なぜそうなっているのか?」という問いを効果的に立てる技術が求められます。

本記事で解説したように、効果的な「なぜ?」の問いを立てるためには、 1. 現状を具体的に理解する。 2. 考えられる仮説を複数立てる。 3. 仮説を検証可能な具体的な問いに分解する。 4. 問いがデータで答えられ、次のアクションにつながるかを確認する。 というステップが有効です。

初めから完璧な問いを立てることは難しいかもしれません。しかし、これらのステップを意識し、試行錯誤を繰り返すことで、徐々にデータ分析を成功に導く質の高い「問い」を立てられるようになります。

ぜひ、日々の業務でデータに触れる際に、「この数字はなぜこうなっているのだろう?」と問いかけ、その「なぜ?」を深掘りするための具体的なステップを踏み出してみてください。その一歩が、データ分析を通じた新たな発見とビジネスの改善につながるはずです。