失敗しないデータ分析「問い」の技術

データ分析で失敗しない「問い」の立て方:手元のデータと向き合う思考法

Tags: データ分析, 問いの立て方, 初心者, データ活用, 思考法

データ分析を進めようとした際に、「データはあるけれど、何から手をつけて良いか分からない」「とりあえずBIツールでグラフは作ったが、次に何をすれば良いか分からない」といった状況に陥った経験はないでしょうか。これは、データ分析における最も重要な最初のステップである「問い」が不明確であることが原因の一つです。

特に、手元に豊富なデータがあるにもかかわらず、それをどう活用すればビジネス上の成果につながるのか見えにくい場合、漠然とした状態から抜け出せなくなってしまいます。データ分析で失敗しないためには、「手元にあるデータ」と「立てるべき問い」をうまく結びつける思考法が不可欠です。

この記事では、データと「問い」の間で迷走してしまう原因を明らかにし、手元のデータと向き合いながら効果的な「問い」を立てるための具体的な思考法とステップについて解説します。

なぜデータがあるのに「問い」が迷走するのか?

多くのビジネスパーソンがデータ分析でつまずくのは、以下のような状況に陥りやすいためです。

1. データを見ること自体が目的になってしまう

BIツールやExcelで様々なグラフを作成したり、数字を並べたりすること自体が目的化してしまうことがあります。データ集計や可視化は分析の一環ですが、それはあくまで「問い」に答えるための手段です。明確な「問い」がないままデータだけを見ていても、意味のある示唆は見出しにくいものです。

2. 漠然とした課題と手元データのギャップ

「売上を上げたい」「コストを削減したい」といった漠然としたビジネス上の課題は明確でも、それを直接手元にあるデータでどう分析すれば良いのかが見えない場合があります。手元にあるデータ(例:顧客の購買履歴、ウェブサイトのアクセスログ、在庫データなど)と、解決したい課題がうまく結びつかないため、「このデータで何を分析すれば売上増につながるの?」という疑問が解消されず、分析が進まなくなります。

3. 手元データの全体像や限界を把握していない

手元にどのようなデータがあるのか、それぞれのデータが何を意味し、どの粒度で、どの範囲の情報を持っているのかを十分に理解していないと、そもそもどのような「問い」に答えられるのかが判断できません。データが利用可能な範囲を超えた問いを立ててしまったり、逆にデータで答えられる有効な問いを見落としてしまったりします。

効果的な「問い」と手元データを結びつける思考法

データ分析で失敗しないためには、「手元にあるデータ」と「立てるべき問い」の間を、一方通行ではなく双方向に行き来しながら思考を深めることが重要です。具体的な思考法をいくつかご紹介します。

思考法1:課題起点で「手元データで何がわかるか?」を考える

まず、解決したいビジネス上の課題や知りたいことを明確にします。次に、「この課題に対して、手元にあるデータで何がどこまで分かりそうか?」という視点でデータを評価します。

例えば、「特定商品の売上を向上させたい」という課題があるとします。手元に顧客データ、購買履歴データ、プロモーション実施履歴データがあるとすれば、 * 顧客データからは、どのような属性(年代、地域など)の顧客がその商品を購入しているか? * 購買履歴データからは、リピート購入が多いか? その商品と一緒に買われやすい商品は何か? * プロモーション実施履歴データからは、どのようなプロモーションが購入につながったか? といったことが分かりそうです。

このように、課題に対して利用可能なデータを照らし合わせることで、漠然とした課題を「どの属性の顧客のリピート率が低いか?」「セット購入を促進するにはどの商品を組み合わせるべきか?」といった具体的な「データで答えられる問い」に落とし込むヒントが得られます。

思考法2:データ起点で「このデータからどんな問いが生まれるか?」を考える

手元にあるデータを探索的に眺めることから始めるアプローチです。BIツールなどでデータの集計や可視化を行い、データの傾向や異常値、他のデータとの関連性などに気づきを得ます。その気づきから、「なぜこうなっているのだろう?」「このデータは他のデータとどう関連するのだろう?」といった疑問を「問い」として言語化します。

例えば、BIツールで商品別の売上推移を見た際に、特定の期間だけ急に売上が落ち込んでいる商品があるとします。このデータからの気づきに対して、「なぜこの期間だけ売上が落ち込んだのだろう?」という問いが生まれます。さらに、「その時期に何かプロモーションは実施されていたか?」「競合製品の動向はどうか?」「その時期に何かしらのトラブルが発生したか?」といった具体的な原因究明の問いへと展開していくことができます。

このアプローチは、まだ明確な課題が見えていない場合や、データの中に隠されたインサイトを発見したい場合に有効です。ただし、目的意識がないままデータを見るだけでは単なる時間の浪費になりかねないため、ある程度の方向性(例:顧客に関するデータを見てみよう、売上に関するデータを見てみよう)は持っておくことが望ましいです。

思考法3:Why-What-Howフレームワークを手元データに適用する

データ分析の「問い」を考える際に役立つWhy-What-Howのフレームワークを、手元データの視点と組み合わせます。

特にWhatの段階で、「この問いは手元データで本当に答えられるだろうか?」と立ち止まって考えることが重要です。データが足りない場合は、問いを見直すか、必要なデータ収集を検討する必要があります。

「問い」を立てる具体的なステップとチェックポイント

データと向き合いながら効果的な「問い」を立てるための具体的なステップと、初心者向けのチェックポイントをご紹介します。

ステップ1:現状の把握と課題・関心事の整理

まずは、漠然とした「気になること」「改善したいこと」「知りたいこと」を自由に書き出してみましょう。現時点ではデータで答えられるかどうかは考慮せず、ビジネス上の関心事を整理するイメージです。

ステップ2:手元にあるデータの棚卸しと理解

自分がアクセスできるデータ(Excelファイル、BIツールの接続先、データベースなど)をリストアップします。それぞれのデータがどのような内容(例:顧客属性、商品情報、売上金額、日付、地域など)を含み、どのような粒度(例:日次、顧客別、店舗別など)になっているのかを確認します。BIツールでデータを確認できる場合は、簡単な集計やグラフ表示を行い、データの概要を掴みます。

ステップ3:課題・関心事と手元データを結びつける

ステップ1で整理した課題・関心事リストと、ステップ2で把握した手元データのリストを照らし合わせます。「この課題に答えるには、どのデータが使えそうか?」「このデータからは、どんな課題に関する示唆が得られそうか?」と考え、両者を結びつけます。

ステップ4:「データで答えられる問い」の具体化

ステップ3で結びついた部分から、「手元にあるデータを使って、具体的に答えられる問い」をいくつか作成します。この時、問いはできるだけ具体的で、分析対象や期間などが明確になるように意識します。

(例) * 漠然とした課題:「特定商品の売上を上げたい」 * 手元データ:顧客属性、購買履歴、過去のプロモーションデータ * 具体化された問い:「過去1年間で特定商品をリピート購入していない顧客のうち、〇〇年代男性に絞った場合、最も効果が見られたプロモーション施策は何か?」

チェックポイント:「良い問い」になっているか確認する

立てた問いがデータ分析に適しているか、以下の点をチェックしてみましょう。

これらのチェックポイントを一つずつ確認することで、手元データに即した、より実践的で意味のある「問い」を立てることができます。

事例:売上データ分析で「問い」を具体化するプロセス

ここでは、手元にある売上データから、具体的な「問い」を立て、分析の方向性を定める架空の事例をご紹介します。

状況: * 営業企画担当者。 * 手元には、全顧客の購買履歴データ(顧客ID、購入日時、商品ID、購入金額)、商品マスタデータ(商品ID、カテゴリ、価格)、店舗マスタデータ(店舗ID、地域)がある。 * 上司から「全体の売上は伸び悩んでいる。何か改善策を考えられないか?」という指示を受けた。 * 何から手をつけて良いか分からない。

思考プロセス:

  1. 現状の把握と課題・関心事の整理:

    • 課題は「売上を伸ばす」。
    • 「どんな顧客が買ってくれているのか?」「よく売れる商品は?」「売上が落ちている店舗は?」「リピート購入はどのくらい?」など、漠然とした関心事がある。
  2. 手元にあるデータの棚卸しと理解:

    • 顧客ごとの「いつ」「どの店舗で」「どの商品を」「いくらで」買ったか、が分かる。
    • 商品のカテゴリや価格が分かる。
    • 店舗がどの地域にあるかが分かる。
    • これらのデータを組み合わせれば、「特定の顧客層の購買傾向」「商品カテゴリ別の売上推移」「地域別の売上比較」などが分析できそうだ。
  3. 課題・関心事と手元データを結びつける:

    • 「売上を伸ばす」という課題に対し、購買履歴データを使えば「売上構成の高い顧客層」や「売上の伸び悩んでいる商品・地域」が特定できそうだ。
    • 顧客属性データはないが、購買履歴から「購入金額の高い顧客」や「リピート回数の多い顧客」を特定し、その特徴を探ることはできそうだ。
  4. 「データで答えられる問い」の具体化:

    • 手元データで可能な分析を踏まえ、売上向上につながりそうな問いを具体化する。
    • (案1)売上構成比の高い商品カテゴリは何か? → これは集計すればすぐわかる。しかし、その後の行動につながるか? → 問いを深める必要がある。
    • (案2)全体の売上の中で、リピート顧客による売上の割合はどのくらいか? → 購買履歴データで計算可能。
    • (案3)リピート率の高い顧客層と低い顧客層には、どのような購買行動や特徴の違いがあるか? → 購買履歴データから、購入金額や購入頻度、購入商品カテゴリなどを分析できそう。地域や店舗との関連も調べられる。
    • (案4)過去のプロモーション施策は、売上やリピート率にどのような影響を与えたか? → プロモーションデータが必要。手元にない場合は、この問いはデータでは答えられない。
  5. チェックポイントによる絞り込みと決定:

    • 案1は集計で終わる可能性があり、深掘りが必要。
    • 案2は現状把握には役立つが、行動につながる具体的な示唆は得にくいかもしれない。
    • 案3は、手元データで分析可能であり、リピート率向上という具体的な施策検討につながる可能性が高い。分析対象(リピート率の高い/低い顧客層)も明確。誰(営業企画、マーケティング部門など)がどのように活かせるかもイメージしやすい。
    • 案4は手元にデータがないため、今回は断念。

これらの検討の結果、「リピート率の高い顧客層と低い顧客層の間には、購買行動や特徴にどのような違いがあるか?」を主要な「問い」として設定することにした。

この問いに答えるために、購買履歴データから顧客ごとの購入頻度、購入商品カテゴリ、購入金額などを算出し、リピート率の高低でグループ分けして比較分析を進める、という具体的な次のステップが見えてきます。

まとめ:手元データと「問い」の往復思考が鍵

データ分析で「問い」を立てることは、羅針盤を持つことに例えられます。しかし、羅針盤だけではどこへ向かうか決められませんし、船(手元データ)の性能や積載量を知らなければ無謀な航海計画を立ててしまいます。

効果的なデータ分析の「問い」は、ビジネス上の目的や関心事と、手元にあるデータの可能性の両方を理解した上で生まれます。漠然とした課題と手元データの間を行き来しながら、データで答えられる、かつ行動につながる具体的な問いへと磨き上げていく「往復思考」が非常に重要です。

まずは、手元にあるデータと向き合い、「このデータで何が分かれば、今の課題解決に役立つだろうか?」、あるいは「このデータからどんな面白い発見がありそうか?それがどんな問いにつながるだろうか?」と考えてみましょう。そして、この記事でご紹介したステップとチェックポイントを活用し、データ分析の最初のステップである「問い」の確立に自信を持って取り組んでみてください。